「SNUG Journal」 へようこそ!
話し合いの場づくり屋 SNUGにまつわる情報や活動内容、対話に関するトピックを毎週金曜日にお届けします。
SNUGの代表長谷川友子はこの1週間、大学にて講義をさせてもらったり、委員会活動をしたり、対話の現場へ行ったりしていました。
さて、今回は第8号。
8号目にしてこのブログ「SNUG Journal」を読み返してみました。初回挨拶の創刊号と、番外編以外のこれまでの記事はこちら。
読み返していて、気づいたことがあります。
「ファシリテーターを務めました」などと書いておきながら、肝心な「ファシリテーター」についてここでお話するの、すっかり忘れていました…。
ですので今回のトピックは、SNUGが考えるファシリテーターのお仕事やそのあり方について。
とても大切なことを心を込めてお伝えします。
ではまず「ファシリテーター」ってどんな意味?
「ファシリテーター」は「ファシリテーション(facilitation)」に人を表す英語の接尾語「er」がついた語です。
まずは思い立って広辞苑第七版で「ファシリテーション」を引いてみました。
ファシズム、ファショダ事件、ぶあしらい、ファシリティー・マネージメント、ファスチャン
…ない!どうやら最新の広辞苑には載っていない言葉のよう(ちなみに「ファスチャン」とは厚地の綾織綿布のことで乗馬ズボンに用いられたそう)。
次回の広辞苑の改訂の際、「ファシリテーター」は載るでしょうか…。
2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立した堀公俊さんの著書『ファシリテーション入門<第2版>』によると、「facilitationの接頭語であるfacilはラテン語でeasyを意味し(中略)人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶようにするのがファシリテーション」と書かれています(※1)。
日本ファシリテーション協会の「ファシリテーション」の定義はこちら。
ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること。
集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味します。
その役割を担う人がファシリテーター(facilitator)であり、会議で言えば進行役にあたります。
ファシリテーターはよく「会議の進行役」と捉えられることがありますが、こう見ていくと会議にとどまらず、場面はいろいろであることがわかります。
実際SNUGは、特定の組織の会議というよりは多様な参加者が集まるワークショップ(双方向の学びの場)やイベント、市民対話の場などでファシリテーターとして参加者や関係者のサポートをすることが多いです。
SNUGが考える「ファシリテーター」とは?
SNUGはファシリテーションを「参加者や関係者全員が目的を果たすことのプロセスと結果のサポート」だと考えています。
突然ですが、以下の写真はファシリテーションする私(長谷川友子)です。何しているように見えますか?
…話しているように見えませんか?
話しているというふうにもとれます。マイクを持ってますし。
ただ、SNUGではファシリテーターが話している(ように見える)ときは大抵「説明している(情報などを伝えている)」か「問いかけ」をしているのです。
私がファシリテーションをする際は「適切な説明」と「適切な問いかけ」の二つを実現しようとしています。自分の意見は述べません。
なぜかって、ファシリテーションは対話のサポートにすぎないからです。
よく「(ファシリテーターをしているから)人前で話すことに慣れているんでしょう?」と言っていただくことがありますが、私は人前で話すのがあまり得意ではありません。
でも、人前で説明すること、問いかけることはファシリテーターとしてできます。…不思議ですね。
ファシリテーターがサポートするとき、何を考えているの?
いろいろあると言ってしまえばそれまでですが、特筆すべきは「目的」です。
しかし、一言で目的といっても、大小さまざま。
というのも「参加者が新たな学びを得ること」「参加者が相互理解を通して新たなアイデアを生み出すこと」のようなプログラム全体での目的達成のためには、限られた時間、人数、備品などを最大限有効に活用する必要があります。
ですから、ファシリテーションをする際は、分単位でその時間の小目的(意図)を設計し、事前にスタッフと共有します。
そして、登壇者の発言意図の確認や、備品をどのタイミングで用意するか、効果的な会場配置などをスタッフと話し合います。必要であれば現場で修正もします。
ファシリテーターはプログラムの中の時間全てに目的と責任を持ちます。
しかし多様な人々が参加している場は事前の予想通りにいきませんし、予想できるわけもありません。
多様な人が集まる対話の場にもかかわらず「このような結果になるはずだ」と決めてかかるのであれば、わざわざ対話を実施する必要がありませんよね。
できるかぎり全員にとって有意義な時間となるよう、ときにタイムテーブルを大幅変更することも。
もちろん勝手にやるわけではありません。現場はファシリテーターだけでない様々な関係者がいますから、関係者と協議しながらよりよい時間を目指します。
現場では常に、「今この場で何が起きている?」「この場に必要なことは?」という視点を持っています。
例えば、「今は参加者がじっくり考えたい時間かもしれない、最後の対話の時間を削ってでもここで時間を取ろうか」「今は休憩時間ではないけれど参加者の何人かは集中力が落ちているように見えるから休憩時間をずらそうか?」など考えています。
SNUGが考えるファシリテーターのあるべき姿「公正な対話のための番人」
SNUGは参加者や関係者が対話の目的を達成することのほかに、ファシリテーションする上で欠かせないことがあると考えています。
それは、公正な対話の実現を追求すること。
ファシリテーターは現場に不平等、抑圧、差別などが現れたら適切な対処をする「対話の場における番人」のような存在でありたいと考えています。
しかし、現状不平等、抑圧、差別などは意識しても見えないものが大半です。だから対話の場全体に関わる人は社会の構造やその変化を学び続け、自身の無意識の偏見を常に意識し続ける必要があると考えます。
SNUGは、安全な対話の実現において「相手の発言を否定しない」というようなその場の言葉の対処だけでは不十分だと考えています。ファシリテーターとして、ときに同意することが、ときに笑うことが、ときに黙ることが差別や抑圧に加担することを考慮しなくてはいけません。
とてもシビアに聞こえるかもしれません。
しかし、もちろん、これらは誰かを裁こう、槍玉にあげようということではありません。
マジョリティ性を持つ人たちもまた対話をすることで想像できる視野が広がり、より自分らしく生きていくきっかけを得ることができると考えているからです。
SNUGは、ファシリテーション自体が一つの権力(パワー)のカタチだと考えています。
一見嫌な言葉に聞こえるかもしれませんが権力やパワーを適切に行使できるということは、自身が自身や周囲に影響を与えることができること、変化を起こすことができるということです。
それってすごく素敵で可能性があることだと思いませんか?
SNUGが考えるファシリテーションの魅力
だからSNUGは、対話の場や研修等を通して、特にマイノリティ性を持つ人たちに対して対話の技術を学びませんかとお呼びかけしています。
マイノリティ性を待つ人たちも、ファシリテーションの技術を通してパワーを持つことができると考えているからです。
さらに、マイノリティ性を持つ人は、マジョリティとは異なった視点で対話の場を捉えることができます。
多様な視点があるというのはファシリテーションをする上での大きなアドバンテージです。
多くの人が、対話を通してどんどん自分なりのリーダーシップをつけていくことができたら。
あなたも、対話をつくること、サポートすることを学んでみませんか?
とっても不思議で魅力的なことだと私は思っていますし、試行錯誤はたのしいですよ!
結び
ファシリテーターとは?から始まり、ファシリテーターへのお誘いで終わってしまいました。自分の考えを書くというのはやはり怖くもあります。でも思い切ってお伝えしてみました。
いかがでしたか?もしよかったらご感想をお聞かせください。
私自身、今の社会のファシリテーターという仕事、役割の認知度もあまり把握できずにいる今日この頃。ファシリテーターを知っているかについては立場や属性による偏りも感じます。
もっともっと学んでいかねばと思いつつ、でも無理するよりは眠ったほうがいいこともわかってきたり…。
話が逸れました。今回も読んでいただいてありがとうございました。
おかげさまで「環境教育・子どもワークショップ」のユースファシリテーター、グラフィッカーは多くのご応募をいただいたようです。嬉しい!
また1週間、みなさん無理せずあったかく過ごしましょう。ではまた。
2023年12月15日
自宅にて
SNUG 代表 長谷川友子
参考
(※1)堀公俊.(2004).『ファシリテーション入門<第2版>』.日経文庫.p-23
(※2)ファシリテーションとは - FAJ:特定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会 https://www.faj.or.jp/facilitation/ (最終閲覧2023.12/15)